横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第2回「一番搾り製法を本気で考える」

昨夜、この記事を書くために、あらためてキリンの一番搾りを買ってきました。

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缶にも書いてある「澄んだ上品な味わい」を意識しながら飲んでみると、たしかにその通りであるのがわかります。綺麗。


じつを申しますと、以前はこの「一番搾り製法」に懐疑的でした。

最終的には同じ比重の麦汁を得るんだろ、一回で絞って希釈しても何度かに分けて絞っても大差ないじゃん、と思っていたのです。

いや全然ちがう、ちがうはずだ、と気づいたのは最近です。


時計を戻します。


ちょっと前、「澄んだビールをつくりたい」という変な考えに取り憑かれておりました。

無濾過で、酵母も生きているクラフトビールですから、必ずしも澄んでいなければいけないわけではないのですが、何かのはずみで一回クリアなビールが出来てしまうと、そっちのほうがカッコいい気がしてしまうのです(笑)


ビールの濁りの原因はいくつかありますが、代表的なものは、まず酵母

ただこれは、きちんとガス圧をかけて熟成期間をもうければ沈殿します。あまり問題はありません。

もうひとつの原因が、麦芽が持つタンパク質。

色の淡いモルトや小麦モルトには、それなりのタンパク質が含まれており、これがそのまま麦汁に移行してしまうと、濁ります。


ということで、ていねいな仕込みを行うことで綺麗な麦汁をつくるよう心がけました。

きっちりプロテインレストを行ない、タンパク質をアミノ酸に分解させる。

ゆっくりと時間をかけて濾過する。

仕込みにかかる時間は延びました。

しかし、うまくいかない。

むしろ、濾過終了が近づくと、なぜか麦汁が濁りはじめる、ということが続きました。

以前よりていねいにやっているのに、濁る。

なんでだ?


手持ちの関連書籍を読み直し、ネットで文献をあたったりして思い至ったのが「ポリフェノール」。

麦芽の穀皮にはポリフェノール(ワインの渋み成分であるタンニンなど)が含まれており、これがタンパク質と結びついて濁りの原因になる。


そして、ポリフェノールは、濁りだけでなく、ビールに渋みをもたらす。このことにはじめて気づきました。

ビールのフレーバーを構成する要素として「渋み」というものを意識したことがなかったのです。


よし、それなら、ポリフェノールの少ない、綺麗な味わいのビールをつくろう、と考えはじめました。

濁りをどうにかしたくてはじめた取り組みですが、いつのまにか趣旨が変わってきています(笑)。まあこっちのほうが正しいでしょう。


 ポリフェノール

1.温度が高いほど溶出が増える

2.pHが高いほど溶出が増える

3.麦汁に触れている時間に比例して溶出する(とはどこにも書いてなかったけど、当然そのはず)


1に関しては、マッシュアウト(糖化酵素失活のための昇温)の温度を下げました。また、スパージング(仕込み湯の追加)温度も同様に下げる。


2については、マッシュおよび仕込み水のpH調整をより厳密にしました。

当社の仕込み水のpHは7.3、中性であり、適正の範囲内ですが、試しに6まで落とし、マッシュのほうもカルシウムとマグネシウムの量をさらに調整してpHを落としました。


そして3についてです。

麦芽の量をこれまでより増やし、スパージングの回数を減らして(究極的にはゼロが理想)、濃いめの麦汁をすばやく抽出して規定の濃度に希釈する、というやりかたを試すことにしました。


あれ?

なんか、どこかで聞いたことありません?

5人組のアイドルがテレビでほら。


そう、一番搾り製法そのものです。


ここで思い至りました。

一番搾り製法とは、麦芽からのポリフェノールの溶出をおさえ、綺麗な味わいのドリンカブルなビールをつくるためのものだったのだ、と。

冒頭に戻ります。

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このビール、所期の目的がきちんと達成されています。きれいで、ドリンカブル。

比較すればはっきりわかります。


さて、当社もやってみました。

もちろん、一番搾り製法とまったく同じではないと思いますが、クリアな味わいを追求するために、仕込み作業を大幅に変更しています。

スパージングゼロだと麦芽使用量が設備的限界を超えてしまうので、ギリギリまで減らすように調整しました。

ええ、コストは上がります(笑)

キリンのマスターブルワーTさんにこの件を聞いてみたら「同じ価格で売っちゃっていいのかという議論があった」とのこと。そりゃそうだ。

濾過中はいままでより温度を下げつつ、なるべく速やかに煮沸槽への移送を済ませることで、麦芽投入〜スパージング〜濾過終了までの時間を大きく短縮しました。


温度、pH、時間。

これらをより適正に近づけた仕込みの結果は?


良好です。

最初に試したペールエール、樽詰め時のテイスティングの感じでは、明らかにいままでと違う。

その後、もう一度ペールエールを仕込み、さらにヴァイツェンIPAと続けました。

みなさんに結果をお届けできるのはもう少し先になります。

お楽しみに!