横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第13回「HAZY IPAをまじめに考える」

 お久しぶりであります。


さて、何回か前にニューイングランドをつくる、というのを書いたわけなのですが、その後醸造回数を重ね、さらに他所さんのヘイジーもそれなりに飲んできて、ちょっとここらでもう一回書かなければ、とブログ管理画面を開いた次第であります。

センテンス長い


ブルワー4年目の生意気盛り(51だけどな)、ちょっと吠えますが画面閉じないでくださいね?


まずですよ、まず、HAZY IPAという呼び方があまり好きではありません。モヤモヤします。

その呼び方では、つまりHAZY(=濁ってる)に価値があるってことになっちゃう。


HAZYなのは、なめらかな口当たりを実現するために溶け込ませたタンパク質とβグルカンが、ホップや穀被のポリフェノールと結びついた結果です。濁らせようとして濁ってるわけじゃないのです。

HAZYだぜえ、って誇るのはなんか変だ。

むしろね、クリアにつくりたいくらいです。

というわけで、当社ではかたくなに「ニューイングランドIPA」と呼ぶのでした。


こんな風潮になったのには理由がありまして、それはぶっちゃけ「濁ってるほど喜ばれるから」。

結果「故意に、過度に」濁らせたようなビールも見られるようになってしまいました。

なんだかなあ・・・

先日のけやきひろばビール祭りでも、過度に濁ったビールにはいくつか当たりました。

上記の、タンパク質&βグルカン+ポリフェノールの濁りならまだいいのですが(酸化には極端に弱くなるけど)、いくつか酵母で濁ったものがあって、これは正直よろしくありません。


酵母は、ホップの成分を吸着する性質があります。

HAZY IPAでは尋常じゃない量のホップを使用しますから、その中にいる酵母は、語弊を恐れずに言えば「きたない」。

ホップの渋み、エグ味、辛味をまとわりつかせた酵母が浮遊したHAZYは、例のイガイガピリピリした雑な味になってしまうわけですね。


さらにモヤモヤするのはですね、ニューイングランド用の酵母ってのは本来、凝集・沈殿が早いのです。

当社のふつうのサイクルですと主発酵7日目にドライホッピングし、4日で引き上げ、その2日後にケグ詰めします。都合13日。

この時点でほぼ酵母は落ちきって、ポリフェノール由来のかすみはあるけれど粒子状の濁りは消えてます。そして、そこから冷蔵庫で1週間も熟成させればさらに沈殿して「きれいに濁った」ビールができあがります。


いったい何日で詰めたらあんな酵母まみれのビールになるんだよ!!!


フンスフンス(←鼻息)


とにかくホップたくさん突っ込んどけば喜ぶんだろお前ら、みたいな、お客さんをナメたようなビールは本当にいやです。

以前も書きましたが、マニアのみなさんは優しいのです。多少のことは「こういうのもまあアリだよね」と許してくれちゃう。

そういう気風があるからこそ、ブルワーはとんがったビールに挑戦することができるわけで、ある意味恩があるんですよ。

恩人には誠意で応えたいものです。


おっと、大事なことを忘れてた。


HAZY、もとい、ニューイングランドIPAもちゃんときれいにつくれます。

みなさんご存知イセカドさんのネコさん、とてもきれいですよね?イガイガザラザラピリピリなんてどこにもいない。

かけるべき手間と時間を惜しんでいない証だと思います。

当社的には、イガイガの元となるミルセンなどの成分を飛ばすため、得意の「ワールプール65℃ホッピング」で最大量のホップ、しかもシトラなどの「きれいな」ホップを投入します。相対的にドライホッピングの量を加減することで、まずはイガイガ成分自体があまりビールに溶け込まないようにするわけです。

なおかつ、ホップ成分を吸着してイガイガになった酵母をきちんと沈殿させれば、炸裂するホップフレーバーときれいさ(=ドリンカビリティ)を両立させたビールになります。


あ、もうひとつ大事なこと。

NEにはシトラ・モザイクなどの「きれいな」ホップだけを使うのが吉です。

エクアノット、ギャラクシー、エルドラドのような「エグい」ホップは避ける、あるいはドライホッピングに限定してごく少量にとどめるようにしないと、すぐエグエグになっちゃうのです。


きれいなホップとそうじゃないホップの違いと使い方の注意点については、またどこかで書きますね。


こういうこと書くからどこ行ってもアウェーになっちゃうのかなあ(←じつは小鹿)