横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第1回「原始的な設備で戦えるのか?」

醸造ノート、輝かしき(?)第1回です。


さて、当社の醸造設備はきわめて原始的です。日本のブルワリーで1、2を争うと思います。

自動化されているところは一か所たりともありません。

温度調整はサーモメーターとにらめっこで、慣性での温度上昇を予測して(つまり勘で)スイッチを入れたり切ったりします。

攪拌は巨大なしゃもじでグルグルです。疲れます。暑いです。

発酵中の温度管理は、エアコンです。室温を上げ下げして調整します。最近、空冷方式を導入して精度が格段に上がりました。

扇風機ですけど(笑)


このような、きわめてプリミティブ(←無理矢理カッコよく言ってみた)な設備で、日夜奮闘しております。


では、こんな設備では、大したビールは作れないのでしょうか?

高価な設備の、有名ブルワリーに太刀打ちするのは夢のまた夢なのでしょうか?


大丈夫、ちゃんと戦えます。


アシッドレスト、プロテインレスト、糖化をマッシュタンで行い、濾過した麦汁を煮沸槽で煮込んでホップを投入し、ワールプールで固形物を沈殿させ、冷却しながら発酵タンクに移し、酵母を投入して密閉し、適温で発酵を進行させ、ダイアセチルレストを経て樽詰めする。


 この一連の行程を、すべて人力で、自分の目で確認しながらやらなければならない、というだけです。

まあ大変ですけど、ビール醸造に必要な作業を一通りやらなきゃならんのは同じなのです。

いや、まあ、うらやましいですけどね、高性能な設備(笑)


さて、こんな原始的な設備ですが、大変なだけか、というとそうでもないのです。

この設備ならではの、利点というのもちゃんと存在します。


いちばんは、自由度の高さ。

個々のタンクを、毎回配管を洗浄接続して使用するわけですが、そこにあらたな工夫を凝らすのは難しくありません。

醸造プロセスの変更も自在と言っていいと思います。

はじめはオーソドックスなホップの投入方法でしたが、最近はワールプールホッピングに変更しました。麦汁の冷却途中でホップを加えるやり方で、麦汁を移送しながら急冷するシステムでは難しいものです。

発酵中にホップを投入する「ドライホッピング」も、当社の設備なら漬け込んだホップの回収が容易です。


メリットはもうひとつあります。

それは、醸造のプロセスを「すべて」自らの目でモニタしながら進めることができる、という点です。

糖化中のマッシュの様子、濾過されてくる麦汁の透明度、煮沸中に生じるブルッフの様子、すべて見えています。

うまく行った時どんな様子だったか、そうじゃなかった時はどうだったか、この目から取り込んで脳に刻むことができるのです。

ビールづくりに「実感」が伴っている、と言うことができるかもしれません。

それはきっと、ビールづくりへの理解をより深めてくれています。


他にも、煮沸槽が開放型(ぶっちゃけ寸胴)ゆえ、密閉型で問題となるDMS(代表的なオフフレーバーの元)前駆体の麦汁戻りの心配がないとか、糖の収率がきわめて高いとか、発酵が切りたいだけ切れる(糖化66℃、アメリカンエール酵母で発酵率アベレージ82.5%)とか、いい点も色々あるのです。


とはいえ、はじめは不安でした。この設備でどこまでできるのだろう?と。

いまは逆です。

この設備で、どれだけのクオリティまで持っていけるか、楽しみです。

むしろ、設備を大きくした時に、同じクオリティが保てるかな、と不安になったりして(笑)


これから開業を考えているみなさん。

あるいは、いま小さな設備に不安や不便を感じているみなさん。

規模の大小はビールのクオリティを左右する決定的な要素ではないと思います。

大きな設備には大きな設備の、小さな設備には小さな設備の、それぞれメリットもデメリットもあり、それを踏まえてメリットを生かしていけばいいビールはつくれます。

より大切なのは、より良いビールをつくろうという意志、そして、それを実現するために常に考え、工夫し、ていねいに作業することに尽きると思います。


ここ最近、ビールに関する文献を読み漁っておりまして、あらたな知見がいくつも得られました。いま、頭の中には新しいアイディアが渦を巻いております。

この設備だから可能になるものも少なくありません。


さあ、醸造醸造