第16回「ホップ品種おぼえがき」
過去最大のインターバルが開いてしまいました。しかたがないのです。コロナが悪いのです。
あと、新聞の連載やってまして、そっちはほら、ギャランティーが発生するじゃないですか←←←
というわけで、今回はホップ品種についてまとめておこうと思います。醸造上のポイントにフォーカスした内容になりますので、ほぼつくる人にしか役に立ちません。需要の有無はこの際置き去りにしますハッハッハ
【モザイク】
アルファ酸12%前後
コフムロン23%前後
精油量1.9%前後
リナロール0.6%前後
ゲラニオール0.7%前後
南横浜ビール研究所不動のスーパーエース。
精油量が多く、つまり香りのボリュームが大きい。ざっくりカスケードの倍。
複雑なキャラクターを持っていて、単一で使っても単調にならない。ワールプールで使うには最強と思われる。
ゲラニオールがリッチなので、ドライホッピングで使うと生体変換でβシトロネロールが沢山生じる上にゲラニオールも残るので、トロピカルなキャラクターになる。
草っぽさがあるけどロットによる強弱が大きい。CRYOだとほとんどない。
コフムロンはそれほど多くないので、短時間の煮沸なら渋みはさほど多くならない。
シトラよりロットのばらつきが大きい印象。分析値をもらって精油量が多いものを選ぶか、なかったら諦めてシトラを買う
【シトラ】
アルファ酸12%前後
コフムロン22%前後
精油量2.2%前後
リナロール0.7%前後
ゲラニオール0.4%前後
これまた当社の絶対エース。あたりまえか
香りのボリュームの大きさはすばらしい。
リナロールが多くゲラニオールが少なめ、というのがモザイクとのキャラクターの違いになっている。
わりとわかりやすく柑橘のキャラクター。
とくにワールプール以前で使うとちょっと単調にも感じる。ところがドライホッピングでは豹変し、グレープのようなニュアンスを伴った複雑な風味を出す。モザイクよりトロピカルが控えめで高貴さを感じる。
モザイクと甲乙つけがたいけれど、ドライホッピングでは僅差でシトラかな?これは醸造長的好みですが
【シムコ】
アルファ酸12.5%前後
コフムロン18%前後
精油量1.5%前後
リナロール0.7%前後
ゲラニオール1%前後
南横浜ビール研究所ではビタリング専用機。
コフムロンの少なさが素晴らしく、これでビタリングすると苦味の角が取れる。渋みに悩んでいたらこのホップに変えるだけでほぼ解決するかも。
香りのボリュームは、優秀な精油量からするとやや控えめ。香りの質自体はいいので、アタリのロットならワールプールやドライで使ってもいいと思う。
小規模醸造でIPAを作ろうとすると、たいてい渋みとの戦いになる。いま使ってるコロンバスをシムコに変え、煮沸後半で投入すれば全然ちがった結果が出るかもしれませんぜ?
【ネルソンソーヴィン】
アルファ酸12%前後
コフムロン24%前後
精油量1.1%前後
リナロール不明
ゲラニオール不明
特有の高貴な香気(YoYo)で有名だけど、じつのところそれを出すのが難しい!SVBのオンザクラウドみたいには到底なりません。
精油量が多くないこともあり、香りのボリューム的にはエースより2〜3枚落ちます。
このホップの真髄は、短時間の煮沸で得られるチオール化合物。これは他の香りを押し上げつつトロピカルなキャラクターを付加する働きがあり、少量の使用で効果か得られます。ビール全体に品の良さを加えてくれる感じもある。
チオールはレモンや白ワインに似た香りで、フルーツビールとも相性がいい
【ハラタウブラン】
アルファ酸9%前後
コフムロン24%前後
精油量1.3%前後
リナロール0.3%前後
ゲラニオール不明
ネルソンソーヴィンと似たキャラクター、そして同じ用途。
NSが買えなかった時に代わりで買ってみたものの、ちっとも香りが出ずいらない子扱いになっていた。ところがある日ふと「煮沸したほうが香りが出る」ということに気づき、それってチオール化合物のはずだ、と考えて使いはじめた。
最近読んだサッポロのレポートに、やはりこのホップにもチオール化合物がいると記述あり。やっぱりな!しかも、むしろNSより多いんだとか。
このホップの価値も、やはりチオール化合物にあります。ワールプールやドライホッピングで使っても費用対効果が低すぎるのであきらめ、短時間(20分がベストらしい)の煮沸でチオールを追加するのがいいと思われます
【サブロ 】
アルファ酸15%前後
コフムロン21%前後
精油量2.4%前後
リナロール0.6%前後
ゲラニオール1.2%前後
次世代エースを物色していて選んだホップ。
超ハイアルファで精油量もものすごく、さらにコフムロンもかなり低い。
こいつはいいぜ、と思って使ってみたら…
ソラチエースでした←←←
おそらくソラチエースを特徴づけている香気成分と同じもの(ゲラン酸?)を持っているようで、熱の加わるワールプール以前で使うと少量でもあのキャラがぐっと立ってくる。
好き嫌いが分かれるタイプなので、こりゃ困ったな使い切れるかな、と思っていたら、ドライホッピングだとソラチ感が出ないことに気がついた。
ドライで使うと、成分表通り豊かに香りが出てくれる。特筆すべきはゲラニオールが超リッチなことで(たぶん全ホップ中No. 1)、そこを意識した使い方をしたら面白いぞと考えております。
注意点は、ココナッツっぽさを持っていること。オイリーさを連想させるニュアンスなので、シャープなビールをつくりたい時には避けた方がいいかも
【エキノックス】
アルファ酸14%前後
コフムロン33%前後
精油量3%前後
リナロール0.3%前後
ゲラニオール0.3%前後
オレンジのような重めの柑橘や、トロピカルな香りを持っていて、他のシトラシーなホップと比べてセクシーな感じが出せる。ダブルIPAなんかにはふさわしいキャラクター。
ただ使い方は要注意で、不用意に煮込むとコフムロンの多さからあっという間に渋くエグいビールが出来上がる。
煮沸では使わないのが無難。ワールプールでも温度を下げてから。ドライホッピングがいいのだけれど、発酵が残っているうちに投入して3〜4日で引き上げ、酵母に吸着させてきっちり沈殿させたい。
渋みエグみを出さないように気をつけて使ったら、大人っぽいキャラクターが得られます
【カスケード】
アルファ酸7.5%前後
コフムロン33%前後
精油量1.6%前後
リナロール0.4%前後
ゲラニオール0.3%前後
クラフトビールといえばカスケード、というイメージがありますが、近年品種改良が進んで上位互換がいくつも生まれています。
性能的にも3世代前、という感じになってしまいました。
安い、というメリットがありますが、ビターも香りのボリュームもシトラの半分くらいなので、むしろ歩留まり悪化を招きます。
ただ、カスケードにはちょっとフローラルな特有のキャラクターがありますので、そこを好んで使うのはアリかと思います。
とはいえ、当社のような小規模醸造ではホップ投入量に限界があり、たくさん使わないと香りが出ないホップは出番が減ります。IPAなどは、単価は高くてもより現代的なホップを使ったほうが結果コストダウン、ということもあるのです
【 チヌーク】
アルファ酸12%前後
コフムロン30%前後
精油量1.7%前後
リナロール0.7%前後
ゲラニオール0.8%前後
ビタリングに使われることが多いですが、コフムロンが多いこともあって使いどころが難しいホップです。
このホップもおそらく何らかのチオール化合物を持っていて、短時間の煮沸で特有の風味と重い苦味が出ます。
なんといいますか、クラシカルなアメリカンIPAの雰囲気が出るのです。
ただ、このホップだけでビタリングすると重渋になってしまうので、アクセントとして少量使う程度に留めるのが吉かと思われます。
ペレットはいい香りなのですが、その香りをつけようとしてもあまり上手くいきません。
ドライホッピングでも重渋が出てしまう恐ろしいホップ(笑)
【ローラル】
アルファ酸15%前後
コフムロン22%前後
精油量2.6%前後
リナロール1%前後
ゲラニオール0.3%前後
コフムロンの少ない、ハイアルファなのを探していてこれを買ってみました。
スーパーノーブルと呼ばれるだけあって、ザーツをパワーアップしたようなキャラクター。
精油量多くリナロールがリッチなのに、フルーティ要素は少ない。フローラル、ハーバルな、品の良い香り。
ハイアルファは、要はIPAに使いたいのだけれども、これだと性格がピルスナーに寄っていこうとするのでやや使いにくい。
ストロングなラガーなんかを作るにはすごく良いのかも
【ポラリス】
アルファ酸21%前後
コフムロン25%前後
精油量4%前後
リナロール0.2%前後
ゲラニオール不明
超苦く、コフムロンが比較的少ないホップを、と選んでみたホップ。
ダブルIPAなどは、苦味を得るだけで設備的ホップ使用限界のけっこうな部分を使ってしまうので、とにかく苦いホップが欲しくなる。
実際苦味は得られるのだけども、このホップはそれ以外の要素が少なすぎる!精油量どえらいのになぜなんだぜ
シムコあたりは苦味と一緒にIPAらしいキャラクターも与えてくれるんだけど、コレはただ苦いホップで香りに寄与せず、結果として香り全体のボリュームが物足りなくなってしまった。要は、IPA向きではなかった。
ミントやメントールのニュアンス、と言われるけれども、言われたらそんな気もする、というレベルで黙って出したら誰も気付いてくれない(笑)
【ギャラクシー】
アルファ酸13.5%前後
コフムロン36%前後
精油量4%前後
リナロール不明
ゲラニオール不明
ギャラクシー香とでも言いたくなる、特有のトロピカル系フルーティが魅力のホップ。
ただし、他のトロピカル系にもありがちな、コフムロンが異常に多いタイプなので注意。
とにかく、煮沸中に投入するとほぼ渋みがでる。ワールプールで65度まで下げて投入しても、ドライホッピングで投入しても、酵母が沈殿し切っていないとあからさまな渋みが残る。
キャラクター的にNEなんかに使いたくなるのはわかるんだけど、よほど注意深く使わないとイガイガピリピリしたビールになっちゃう。
というかですね、ギャラクシー使ってて手放しで美味しかったのはキリンさんのくらいですよまじで(笑)
1袋10キロだったので、ドライホッピングのみで使い切るのに苦労しました。
腕にものすごく自信のあるブルワリー専用ホップだと思います。ウチはもう買わない(笑)
【番外編:CRYOホップ】
要は濃縮タイプのペレットホップで、ざっくり2倍の濃度と思えばだいたいOK。
値段も倍(以上)なので、経済的なメリットはナシ。
ただ、うちのように投入できるホップ量に限界がある場合、使わざるを得ない場合が出てきます。
ニューイングランドに関しては、このホップを使わないと作れません。ホップかすの沈殿量が、ビール取り出し口より上まで来ちゃうのです。
ビタリングでも、CRYOのシムコを使えば少量で済むので、香り付けに使える枠が増えます。
ちなみに、CRYOになるとキャッチーなキャラクターになります。シトラもモザイクも、グラッシーな要素が少なくなり、樹脂っぽい感じも控えめな気がします。
当社のように、クラフトビールを飲み慣れていない地元の人に喜んでもらいたい、なんて場合にはいいと思っています。
ただし、1袋5キロ、つまり通常ペレットホップに換算すると10キロ分なので、使い切るのに時間がかかりそうな場合には避けたほうがいいです。ホップのフレッシュさって、思っている以上にビールの出来を左右するので。
ということで、今回は醸造サイドからのホップレビューでした。
役に立ったら一杯おごってください(笑)