横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第15回「Brut IPAの正解がわからない件」

あけましておめでとうございます。

ギリギリ1月だからいいのです。


最近イベントなどで「ブログ読んでます」的なことを言われることが増えまして、なんというかモジモジしてしまうのですが、それはまあいいとして「もっと書け」的なことを言われたりもするわけです。

今高らかに言おう。


そんなにネタねえ!


というわけで久しぶりの投稿となりました。言い訳に費やす行数がどんどん長くなるな


Brut IPAです。

今さら感は否めません。一瞬盛り上がるかと思わせてあっという間に「もいっか」的な空気になってしまいました。

原因は明白でありまして、要は「なんか正解がよくわからない」ということに尽きるかと思います。


アミログルコシターゼという酵素を用いて発酵を極限まで進めてキレッキレのボディをつくり、そこに鮮烈なホップ の香りを乗せて「辛口シャンパーニュ(=Brut)のような」シャープで華麗なビールにする


こう書くとすごく美味しそうなんですよ。

なんですけど、飲んでみると…

「えっと、セッションIPAとどこが違うの???」

みたいな感想になっちゃう。


酵素を用いてとか、最終比重が1.0を切ってるとか、いろいろあるとしても、もっとも重要な「飲んだ感じ」がセッションIPAと大差ないんじゃ、えらい苦労して(するのです)Brutつくる意義は失われます。

ブルワーのモチベーションだって失われます。

そして下火になりつつある。

ブリュットきらい、という声もけっこう聞いたりします。


さあここで「遅れてくるヘソ曲がり」南横浜ビール研究所の出番です。だれも待ってない?知ってます。


ちょっと時計を巻き戻します。

1年半ほど前、キリン&スプリングバレーブルワリーのマスターブルワーTさんにお店に来ていただいた時に、ニューイングランドの話になりました。

アメリカ人も苦すぎたんだよ」

要は、苦すぎるビールにアメリカ人もちょっと食傷し始めており、そのカウンターとして生まれたのでは、というのがTさんの分析だったのでした。


それを聞いて考えました。

だとしたら、Brutは「ニューイングランドは甘すぎるしくどすぎる!」と感じた人に支持されて広まりつつあるのではあるまいか。

つまり、ニューイングランドの香りは好きだけど、もっときれいでキレたビールが飲みたい、という需要なのだろう、と。

それなら自分も飲んでみたいな、とも思いました。

はい、このときまだブリュット飲んだことなかったのですね(笑)


その後いくつかのブリュットを飲み、むむ、これセッションIPAじゃだめなのか?と混乱してしまったわけです。

なんですけど、じゃあやらんでいいや、とは思わず、よそとはちがうアプローチで別の解にたどり着けるんじゃないか、と考え続けておりました。


そんな時、「秋のけやきひろばビール祭り」でうしとらのKさんとお話しする機会があり、うしとらさんのブリュットを飲ませていただきました。

うしとらさんは、やはり独自のアプローチを試みて、Brutが薄っぺらくなるのを避けていたのでした。その結果、とても美味しい!

ついでに酵素の使い方を教えていただいたこともあり、これはもうやろう、と決めました。


Brutの弱さ、物足りなさは、キレすぎていることによる「薄い」感じがひとつの要因です。

麦芽の使用量は同じでも、発酵が進んでキレているほど味わいは軽くなります。糖分、つまり甘みがボディの厚みに大きく寄与しているので、これがアルコールに置き換わるほどシャバシャバ軽くなっていく。

アルコール7パーとかあるのに薄いと思われるのはこういうことなのですね。


かといって、甘みやモルト感を補ってしまっては、そもそもBrutの意味がありません。

ということで、別のところに「厚み」を持たせることで、味わいの薄っぺらさを補おう、と考えました。


またちょっと戻りますけど、わたしはBrutはNEのカウンターとして発生したと勝手に想像していたわけですね。

ニューイングランドの香りでキレたのが欲しい、という需要だと。

まあこれは違っておりました。だいたいみんなアメリカンエールイーストで醸造されてるようでした。


でも待てよ、と思いました。

最初の想像は、捨てるには早い。もったいない。


サンディエゴスーパーですとか、あのへんのアメリカンエールイーストは、ホップの持つ香りを活かし切る、という観点で用いられる酵母です。

高いβグルコシターゼ活性でホップの香りを引き出しながら、自身はほとんど香りを生成せず、ホップの香りを邪魔しない。

これをチョイスする理由も理解できるのですが、「アッサリした酵母」であるアメリカンエールイーストだから薄く感じる、というのもまた事実。


やっぱニューイングランド酵母で行こう、と考えました。

ニューイングランド用のイーストは、アメリカンエールイーストと同等のβグルコシターゼ活性を持ちつつ、超絶高い生体変換能力でホップの香りをトロピカルなものに作り替え、さらには自身も豊かなエステルを作り出します。

これでBrutをうまく醸造できたら

・ホップ本来の香り

酵母が変換したホップの香り

酵母がつくり出すエステル

この3枚の香りが重なり合い、香りにレイヤー感が出て物足りなさが解消できる、というのが結論でした。


ただ、ひとつ問題があります。

ニューイングランド酵母、キレないんですよ。甘みが残る。


ただ、これにもほんのり勝算ありと考えておりました。

キレない酵母ってのは、つまり分子の大きな糖分を食べるのが苦手なわけで、酵素によって糖を細かく分解しつつ発酵させるBrutのやりかたなら、おそらく問題ない。はず。


失敗したら?

名前変えて出しますよ?←←←


ということで、実際の醸造です。

モルトピルスナー65%、マリスオッター35%

ビタリングホップ:CRYOシムコ(20分)BU27

ワールプールホップ:CRYOシトラ@65℃ 5g/L

ドライホップ:CRYOシトラ4日目〜8日 4g/L


麦汁は準一番搾り的な濾過でタンニンの溶出を抑え、渋みと濁りを取り除きました。「Brutシャンパーニュのような」感じをめざすなら、モルト感より引っかかりの無さを取るべき、という考えですね。


これで酵母をピッチし、順調に発酵…

と思いきや、き、切れない!!!

スタートは順調でその後もいい感じに発酵が上がっていき、いつも通り落ちてきてさあそろそろかな、と思ったら、ダラダラダラダラと発酵が続くことその後2週間!

都合3週間発酵タンクに居座りつづけることとなりました。

だ、大丈夫かいな?


いざ樽詰め。

お、いい香り!色もクリアです。

テイスティングしてみると…

いい!

シャープなキレを感じます。

ニューイングランド酵母×シトラのドライホップで立ち現れるグレープのような香りによって、本当にスパークリングワインのようなキャラクターも備わってる。

そして…

薄っぺらくない!!!


いやちょっと待て、とあわてて比重を計ると…


0.998ですと?


つまり


大成功!!!

熟成を終えてグラスに注いだこのビールは、きれいにクリアなゴールドで、グッドルッキング。

香りは華やかで、ちょっと高貴な感じすらある。

味わいは辛口を意味するBrutにふさわしいシャープさを備えながら、軽すぎる、薄い、という感じはまったくありません。

お店でも、外販先のビアバーさんでも、非常に好評でした。


個人的にものすごく気に入ってしまい、わりとすぐ次バッチを仕込んでJAPAN BREWERS CUP2020に出品してしまいました。

決勝進出こそ逃したものの、大健闘!

また、いろんなブルワーさんに飲んでいただいて、いい評価をいただきました。

うれしいなー!


ちょっと会心のビールができちゃったもんだから、ブログにしてみました(笑)

ターレIPAニューイングランドIPAとともに、南横浜ビール研究所の看板にしていきたいな、と思っております。

Brutきらい、と思っているかた!

ちょっとうちの飲んでみて!(←最後は安定のたどたどしいプロモーション)


ではまた