第14回「マルチイースト発酵」
今思いついた造語なのでググっても無駄です←
酵母について色々考えているうちに、ある考えに到達しまして、実際のビール造りで試してみました。
実験台?お客さんですよ?いつもですけど←
ビール用酵母には様々な種類があって、それぞれに特色があります。
で、特色とはなんだ、と考えると、それはつまり得意不得意と言い換えることもできるな、と。
一例をあげますと、度数の高いバーレーワインをつくる場合などがあります。普通の酵母では自ら作り出したアルコールに耐えられずに発酵がストップしたりするので、発酵後半にハイアルコールに強いシャンパン用イーストを追加したりするのです。
麦芽由来の糖分を発酵させるのが得意なビール用酵母に前半を担当させ、ハイアルコールが得意なワイン系酵母に後半を担当させる。
これ、全然違うアプローチもできるはずだ、と考えたのです。そういう変なことばかり考える(笑)
で、やってみました。
だいぶ前ですが(←つまりネタはあったけど書くヒマがなかった)
そういえば、みんな夏にヴァイツェンボックつくらないな、と思った瞬間に「じゃあつくろう」となりました。変なことばかり考える(笑)
もちろんふつうにドス重くつくるんじゃなく、夏ならではの、夏飲むのにふさわしい、そんなヴァイツェンボックだってあっていい、という考えですね。
ヴァイツェンボックらしい香りの豊かさと、爽やかさを同居させたビールにしたい、と思いました。爽やかさは程よいキレとホップのフレーバーに担当してもらうことにします。
キレについては、7%程度のアルコールのベースを全部麦芽に求めるのをやめ、一部ショ糖に置き換えました(←もうこの時点でビール純粋令とサヨナラ)。ショ糖はほとんどキレちゃうので軽さが出ます。
そしてホップ。
爽やかさ重視でシトラをチョイスし、ワールプールとドライホッピングでどーんと投入しちゃいます。
そしてここで問題が生じます。
じつはヴァイツェン用の酵母は、ホップの香りを引き出す能力が残念なくらい低いのです。
βグルコシターゼ活性、というらしいのですが、これが非常に低い。
つまり、ふつうにヴァイツェン用酵母を使って、ホップ を大量に投入しても、そのホップが生かされない。いっぱい入れてるのに香らない、という結果が待っています。
そこで考えました。
「ホップの香りを引き出すのは、得意な酵母に担当して貰えばいいじゃないか」
ホップの香りを引き出す作用は、アルコールをつくる「発酵」とはまた別のメカニズムで進行します。それをヴァイツェン用ではなく、別の酵母にお願いするわけです。
選んだのはニューイングランド用の酵母。アメリカンエール用も同程度のβグルコシターゼ活性を持っているのでそちらでも良かったのですが、あまり色を出さないそれよりも、はっきりと「らしさ」を主張してくるNE用の酵母のほうが効果を確かめやすかろう、と考えました。
というわけで、ヴァイツェンボックらしい香りはヴァイツェン酵母のエステル産生能力に担当してもらい、ホップの香りを引き出すのはニューイングランド用に担当してもらうべく、ヴァイツェン用80%、NE用20%を同時にピッチしました。
酵母は株によって増殖能力も違うはずで、発酵を終えたときにどういう比率になっているかは正直わかりません。割合も確信があって決めたわけではなく「あくまでヴァイツェンボックなんだから主体はヴァイツェン用酵母で」となんとなく決めたにすぎません(笑)
ワクワクソワソワしながら完成を待ちました。
【夏なのにヴァイツェンボック】
ABV7.2% IBU25
HOPS:CRYOシトラ、シムコ
なんとまあ狙い通り!な仕上がり。
淡色につくりましたので、ヴァイツェンらしいバナナ、バニラ、りんごなどの風味が豊か。あくまでもヴァイツェンをベースにしたビールであると主張します。
そして、ホップの香りがきっちり溶け込み、シトラ由来の柑橘フレーバーが爽やかさを演出してくれました。
さらには、NE用酵母が持つ「香り変換能力」が働き、トロピカルに作り替えられたホップの香りが彩りを添えてくれている。
このビールうまいな!だれがつくったんだろう?(←珠玉のギャグ)
結果として非常に好評でありまして、次いつつくるのかとたくさん言われました。うん、気が向いたらね?←
イベントに出そうと出し惜しみしていたら夏が過ぎちゃって、途中から「残暑なのにヴァイツェンボック」に改名しましたが、ブルワーには柔軟性が重要なのでいいのです。
試みは成功した、と言っていいと思います。
次も成功する確証などありませんが、違うアプローチでまたこの「マルチイースト発酵」は試します。
失敗しても飲んでくださいね?
いまわたしの頭の中には「この酵母のこの得意分野と、こっちの酵母の別の得意分野を組み合わせたらこんなビールができるんじゃなかろうか」みたいな考えが渦巻いておりまして、楽しいです。
このやりかたは、ビールづくりの自由度を大きく上げてくれるものなんじゃないか、という気がしているのです。
こうなっちゃうと、ビールのジャンル分けがややこしくなりますな(笑)