横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第8回「ニューイングランドIPA醸造」

夏のイベントでリリースするため、ニューイングランドIPAを仕込みました。


念のため「ニューイングランドIPA」とはどんなビールなのか軽く触れておきます。


濁った外観になめらかな口当たりと甘みを備え、ジューシーでフルーティ、そしてトロピカルなフレーバーをまとっています。

大量のホップを使用する西海岸スタイルIPAの、さらに倍以上のホップが投入されることから「ホップジュース」なんて例えられたりします。


数年前生まれたこのスタイル、アメリカの東から西へと伝い、昨年から日本でもつくられるようになりました。

ということで、当社も挑戦です。


このビール、非常にフルーティでジューシー、そしてトロピカルなフレーバーを備えているのですが、それには酵母が重要な働きをしています。

以前にも何度か書いた「酵母によってホップの香りが作り変えられる」という作用が、このビールのキモなのです。

発酵前にゲラニオールなどの芳香成分を大量に溶け込ませ、フルーティなβシトロネロールなどに変換してもらうことで特有のフレーバーが生み出されています。

おそらくはゲラニオールだけではなく、ほかのテルペン類やらチオール化合物なども変換を受けているのでは、と思うのですが、このへんのメカニズムはまだ解明されていません。大手さん、よろしくお願いします←


で、使われているホップはモザイク、シトラ、アマリロ、などの常識的な柑橘系ホップ。とくにトロピカルなギャラクシーやらエルドラドやらカリプソなんかは使われないのがちょっと面白いところです。


もうひとつの際立った特徴「濁り」ですが、これはぬるっと滑らかなマウスフィールを得るために配合するオーツ麦由来のタンパク質とβグルカンが原因のひとつ、超多量のホップによるポリフェノールがもうひとつ。

柔らかい甘みのために使われる乳糖(ラクトース)も一役買っているかな?


現在アメリカで流行中、というかジャンルのひとつとして定着しつつあるようで、続々と日本にも入ってきていますね。

日本でも志賀高原さんを皮切りにわが神奈川の名門サンクトガーレンさん、伊勢角さんやワイマーケットさんなど、様々なブルワリーが美味しいビールをモノにしています。


当社も、まずはもっとも重要な、ロンドン系の酵母を入手しました。

それからフレークドオーツ。これはコストコでちょうどいい量のものが手に入りました(笑)

それとラクトース。これは必須ではないのですが、「使うか使わないか」という選択なら常に「使う」を選んでしまうのが当社(笑)。最低ロットが25キロというのが悩ましかったのですが、発注してしまいました。


さて、ここで思案です。

いつも意識するポイント「当社ならではの良さをどう注入するか?」です。


ニューイングランドIPAにはひとつ、味覚上の弱点があります。

大量のドライホッピングによって、ミルセンなどによる「松っぽい感じ、樹脂っぽい感じ」がごっそりいるのです。

アメリカのビールはこのへんに無頓着、というかむしろ自慢げに「ちょーレジナスだぜえ」なんて書いてあったりするのですが、正直日本人の味覚ではエグ味に感じられても不思議ではありません。

個人的には「アクセントとして感じられるくらいがちょうどいい」という感じです。


ここで、最近当社的定石となった「ワールプール65℃ホッピング」が生きてきます。

煮沸を終えた麦汁を循環させながら65℃まで一次冷却し、そのタイミングでアロマホップをどさっと投入するのですが、この温度だと重要な芳香成分であるリナロール、ゲラニオールはほとんど蒸発せず残ってくれます。

一方、樹脂っぽさの源ミルセンはほとんど飛んでくれるのです。

ここで投入する量を増やし、発酵中&発酵後に投入するドライホッピングを減らせば、全体として香りのボリュームは確保しつつ、樹脂っぽさの少ない仕上がりになる計算です。


日本人が醸造し、日本で販売するわけなので、より日本人の嗜好に合致した方向に振るのがスジだろう、と考えました。


アメリカにはすぐれたクラフトビールがたくさんあり、それに対する憧れがいまもあります。

あれを再現しよう、と色々試行も重ねてきました。そして、ある程度それはできるようになりました。

すぐれたビール、すぐれたブルワリーに対するリスペクトは抱きつつ、でもただなぞらえるのは終わりにして、日本人である自分が日本の人々に向けてどういうビールをつくるべきか考える。

いまはそういう時期に入った、と感じています。


というわけで!

本日2018.6.25に、樽詰めをしました。

配合したオーツ麦とラクトースは、なめらかな口当たりと優しい甘さとしてきちんと存在しています。

濁りはほどほどですが、それは本質的な問題ではないのでまあいいでしょう(笑)

ホップフレーバーは炸裂しています。

口元に近づけるだけで派手に香ります。

ジューシーでトロピカルなフレーバーも、まさにニューイングランドIPAそのもの。

そして…

狙い通り、樹脂っぽさは「ちょっとアクセント程度に」収まっています。

ひとことで言うと「きれいなNE IPA」です。


さてこのニューイングランドIPA、フレッシュさが重要で早めに飲むのが吉とのこと。

1ヶ月を待たず、早めにつないでみます。

大半はイベントに持ち込んでしまうので、お店で出せるのは少量。

つなぐ時にはフェイスブックで告知しますので、そのときはぜひ飲みにきてくださいね!