横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第11回「新しいスタイルを世に問う:ビターレスIPA」

お久しぶりであります。(こればっか)


この冬は、例年より忙しく過ごしておりました。

ジャパンブルワーズカップがありましたし、あとそうだ、JAPAN GREATBEER AWARDS2019にもIPAを出品しまして、銀賞をもらってきたんですよ。

金賞は該当なし、同じ銀賞に伊勢角さんや横浜ビールさん、そんでもって得点的には最高得点(なぜならあと1点で金賞だから)でした。

激戦のアメリカンIPA部門ということを考えると、ナイスファイト、だったのではありますまいか?(笑)


そんな日々を送りつつ、うちの美人ブルワーななこちゃんにひとつ宿題を出しておりました。

「女性ならではの感覚で、いま『ビアラボがつくるべき』ビールを考えてみてほしい」

というものです。簡単じゃないと思います。


かなりの熟考のすえ、彼女が提案してきたのは「ビターレIPA」。

いわく「苦いのは苦手だけど、ホップの香りは好き、という人は少なからずいるはずで、そんな人にホップを思い切り楽しんでもらえるビールはあっていいと思う」。

なるほど、と思いました。

いまのクラフトビールブームを牽引しているひとつの大きな要素が「IPA」というビールであるのは間違いない。

だけど、IPAの持つその苦さが、じつはハードルになっているのも事実だと思うのです。

近年流行のニューイングランドスタイルIPAは、苦すぎた旧来のIPAに対するカウンターとして生まれたようにも思えます。

甘くトロピカルでジューシー、苦味は控えめ。

なんですけど、そこはアメリカ、ウエストコーストIPAの反動ということもあり、さまざまな要素が「過剰」なんですよ。

NEパイント1杯飲んだら、永遠にホップが戻ってきますもんね?(笑)

つまり、NE-IPAも結局のところマニア目線で生まれたジャンルだと思うのです。


前回も同じようなことを書きましたが、われわれがいま作らなければならないのは、マニアを喜ばせるものよりも新たなクラフトビール好きを誘うもの、のはずです。

奥の細道よりハイウエイ、アングラ映画よりハリウッド、秘宝館よりディズニーランド。


そう考えると、ななこちゃんの提案は「ジャンルとして新しいビール」の、大きな可能性を秘めている、ど思いました。

ということで、ななこちゃんにレシピを設計してもらいました。


・ホップはばーんと効いている

・でも過剰なのはダメ

・レジナス(樹脂っぽい)のもだめ

・甘さはほしい

・度数は高すぎなくていい

・全力で苦くない


これを実現するために、多少のアドバイスはしたものの、ほぼ彼女が独力で書き上げたレシピです。

アルコール度数は5%台前半を狙いました。

IBUは15、これは、ホップの防腐作用の最少限度と考えて設定した数字です。常温でホップを投入するドライホッピングには雑菌混入のリスクが伴いますから、これ以上下げるのは難しいと判断しました。

苦味づけのホップには、渋み成分コフムロンが最少の「シムコ」のみ使用。

優しい甘みを加えるため、ラクトース(乳糖)を2kg/150L投入しています。

ホップ投入量は、ウエストコーストとニューイングランドの中間くらい。ワールプールで65℃まで下げたタイミングに最大量の「モザイク」を、ドライホッピングには「シトラ」を樹脂っぽさが出過ぎないぎりぎりの量を狙って投入。

酵母ニューイングランド用を使用して、ホップの香りをトロピカルなものに変換してもらうことにしました。


さて、完成しています。

じつは、当店より先に横浜のJINGLEさんで開栓されまして、女性に非常に好評だったとのことです。

狙いどおり!(←ななこ談)


ほのかに甘く優しい味わいの中に、マンゴーや桃のようなトロピカルフレーバーがたっぷり。

甘さやモルト感に隠れて、苦味はとても低く感じます。

あらたなビール好きをクラフトビールのも世界に招き入れるのに、とてもふさわしいビールになったと思います。


やったぜななこちゃん!

ただの大酒飲みじゃなか(ゴスッ


さあ、ここに、日本発のあらたなビアスタイルとして「ビターレIPA」を提案したいと思います!

どうよ!!!



追記


ターレIPAは、今やビアラボの準定番となっています。

その後数バッチを醸造しつつ、マイナーチェンジを繰り返してきました。


まずは、さらなるビターレス化を進めるためにIBUを8まで下げました。

IBU8のIPA(笑)。IBU150のトリプルIPAよりむしろクレイジーです。

IBU8では、常温でホップを投入するドライホッピングは微生物汚染のリスクが高すぎます。

ということでドライホッピングはやめて、ワールプールを65℃まで下げてからホップを大量に投入することにしました。

このやりかたには利点があり、樹脂っぽい香りの源であるミルセンがほとんど揮発するのです。

これにより、ビターレIPAの「フルーティでトロピカル、そして角がなくてスルスルと飲みやすい」という美点をさらに高めることができました。


つくるごとに完成度は高まり、ビアバーやイベントでの評価も高まっている実感があります。

ホップを大量に投入し、ホップの心地よいフレーバーをふんだんに備えながら、ホップの持つネガティブな要素が取り除かれた「ビターレIPA」には、やはり新たなジャンルを形づくるだけの可能性があると思います。新たなビールファンを獲得する可能性があると思うのです。

ぜひ、他のブルワリーでも醸造されるようになればいいな、と考えています。