横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第10回「イベントでムキになる理由」

お久しぶりであります。

ビール屋の秋ってのはなかなかいそがしいのです、イベント重なったりとか(春も夏も言ってた気がする)


さて、われら南横浜ビール研究所は、じつは、イベントでビールがよく売れるブルワリーだったりします。

売れる、ではないな、売る、です。

つまり必死なのです。だいたいどのイベントでもいちばん必死で声を張り上げて売ってます(笑)

とにかく目を三角にして、ムキになってます。なんというか、そうするのがスジだ、と思うんですよね。

今回は、ちょっと醸造をはなれてそのあたりを語らせていただきます。


右も左もわからずオープンしてからしばらくは、とにかくビールを作るのに必死で、あまり外向きのことをする余裕がありませんでした。

そんな時期を過ぎ、冬を前に忙しさも一段落した2017年1月、JAPAN BREWERS CUPのコンペに出品しました。IPAを2種類。

結果は、それぞれ1回戦を1位と3位で通過しましたが、2回戦を突破して決勝の6本に残ることはできませんでした。

これがイベントデビュー。

今思えば、経験ゼロからブルワリーを立ち上げ、開業一年未満だったのですから、上出来といっても良かったのかもしれません。

しかし、わたしとオーナーはめっこり凹んで店に戻ったのでした・・・


その後、フェス的なイベントにもいくつか出店し、毎回ムキになりつつ経験を積みながら、イベントで売るにはどうすればいいのか、そしてイベントに参加する意味とは、と自問し続けました。


なんとなく、答えみたいなものも見えてきている気がします。


ひとつには「ひとりよがりに陥らないこと」というのが挙げられるかもしれません。

ビールは、設計して、仕込んで、そして飲んでもらってはじめて完結する製品です。

手に取ってもらって、飲んでもらって、美味しいと思ってもらって、ふたたび手に取ってもらう。

このサイクルをめざしてつくられるべきものだと思うのです。

どんなものが興味をもたれ、手に取られ、飲んでもらえるのか。そして、美味しいと思ってもらえるのか。つねにその点を意識してつくっているつもりですが、それがうまく回っているのかが如実にあらわれるのがイベントなのだ、と実感するようになりました。


ビアラボの店舗は横浜のはずれ、京浜急行金沢文庫駅近くにあります。

ここは商業地、繁華街の規模は小さく、住宅地としてさまざまな世代・嗜好の人々が住む街です。

クラフトビールマニアの人たちだけを相手に商売できるような土地ではありませんし、またそういう方向性は考えていませんでした。

地元のビールメーカーとして、地元の人たちに愛され、その土地に根をはる。

ちいさなクラフトビールメーカーの、それがひとつの理想のかたちだと思ってスタートしたのです。

おのずと、ビールの方向性も定まります。

「飲みやすくわかりやすい美味しさを備えている」

これに尽きると思っています。

たまにヘンテコなビールもつくりますし、ヘンテコなつくりかたを編み出したりしていますが、それらもすべて「普遍的な美味しさ」をめざしたものです。

そこを外れたことはありません。

いまや、もうクセみたいなもので、新たにレシピを構築するときも、気づくと飲みやすさわかりやすさを意識したつくりになっちゃってます。

これがブルワーとしてのわたしの特性だとしたら、まあそれも悪くない、と思うことにしています(笑)

そして、それを意識しながら、あるいは無意識に続けてきたことが、じつはイベントでの強さにつながっているんじゃないか、と最近思うようになりました。


ビールのイベントには、さまざまな人たちが訪れます。マニアばかりではありません。

むしろ、マニアは少数派だと感じます。

なにか楽しそうなイベントやってるな、と来てくれる老若男女、地元の人、遠くの人、海外の人。そんな人たちに、飲んでもらう。

そこでは、飲みやすさわかりやすさは有効な武器になります。

わかりやすさの重要な要素には、名前もあります。

「エクステンディッドセンシズスルーザナイトXYZ」みたいな名前をつけてみたい気もしますが、求められているのは「あざやかホップの小麦エール」のほうだと思うのです。

昨今はクラフトビールブームなんて言われますが、その実まだまだだと感じます。「IPA」はどこでも通じる一般名詞にはまだなっていないのが現実です。読みかた聞かれますもん、今でもお店で。

なので、おしゃれなネーミングに憧れつつも、わたしたちは敷居を下げる方向で名前を考えます。

マニア御用達的な空気が出ていたら、イベントでは少なからずマイナスのような気がしてしまうのです。


味わいにも同じことが言えると思っています。

マニアのみなさんは、じつは優しいので、ちょっとクセの強すぎるビールができたとしても「こういうのもアリだよね」と許してくれがちです。

マニアではない、ライトユーザーのかたが同じビールを飲んで「クセ強い、飲みにくい」という感想をくれたとき、大切にすべきなのはどちらの言葉でしょうか?

もし「これの良さがわからないのか素人め」と思っちゃったら、そこはもうブルワリーとして終ってるんじゃないか、と思うのです。

エクストリームなビールを否定する気はありません。

けれど、エクストリームであることと、普遍的な、だれにでもわかる美味しさを備えていることは相反しません。両立できる要素のはずです。

ストーンのIPAも、ファイアストーンのユニオンジャックも、うしとらさんのウエストグリーンIPAも、伊勢角さんのNEKONIHIKIも、どれもエクストリームでありながら何のエクスキューズも必要ない美味しさを持っています。

それらは、個性を標榜して極端さだけに走ったビールとは志の高さが違う、とても価値の高いビールたちだと思います。

南横浜ビール研究所がめざすのは、そういったビールをつくるブルワリーです。

いつ、だれが、どれを飲んできちんと美味しい。

マイクロだけど、ニッチではない。

変化球よりも直球。

IPAヴァイツェンもポーターもベルジャンもやる当ブルワリーとしてはなかなか簡単ではないことだと思いますが、でもめざします。


ビールイベントは、そういったスタンスがちゃんとうまくいっているかを確認することができる貴重な機会です。

というのも、「同じ場所で出店しているブルワリーの中での相対的な位置がわかる」からなのです。

多くのイベントでは、1日ごとに売り上げを集計し、それがブルワリーに知らされます。

どこがどれだけ売ったか、自分たちは何位なのか、わかっちゃうのです。

これは、お店では得られない、イベントという場だからこそ手に入る、言い訳の効かない成績表だなーと思います。

これはもう真剣になるしかないじゃないですか!

ま、競争に無駄に燃えるバブル世代とゆーのもありますけども(笑)


さあ、少しずつ書いているうちにJAPAN BREWERS CUP 2019が間近になってしまいました。

もちろん燃えてます。

IPA部門に2、新設のペールエール部門に1、小麦部門に2、濃色部門に1、エントリーしました。

渾身のコンテスト仕様です(笑)。

もちろん勝つつもりで出ますよ!

真剣勝負の場、そのくらい気合い入れてつくった、自信のあるビールを出さなきゃ失礼ですから!

そしてもちろん、必死に売りますよ!

売れないと悲しいですし(笑)

いやあ楽しみです。楽しみすぎます。


ではみなさん、大桟橋ホールでお会いしましょう!