第9回「原理主義をぶっとばせ」
ほんとすいません。
サボってたわけじゃないんですよ?
夏はほら、ビールの仕込み忙しいしほら、イベントもイロイロありますし。
ああ、なんか言い訳からスタートするのが流れになってますな(笑)
さて、今回もちょっと吠えてしまいそうな気がしております。タイトルからして好戦的。
わたしの中に、ひとつビールについて揺ぎない思いがありまして、それは「ビールは自由な飲み物である」というものです。
飲まれるシーンを考えても、それはカジュアルで、自由で、肩肘張らない、そういうものだろうと思うのです。
なんのマニアでも原理主義者ってのはいるもので、たとえば「ドイツ産ホップを使ったもの以外ヴァイツェンとは認めない」みたいな発言はたまに目にしたりします。
認めないのは自由ですが、目の前にあるそのビールが美味しければ、そこには確固たる価値が存在しています。
そもそもですね
まず、ヴァイツェンの原型となるビールが南ドイツで生まれ、フォロワーが生まれ、人々の間で認知され、広まっていき、そのあとにそのビールをどう名付け、どこまでの範囲のものをそう呼ぶか決まっていく、という流れなわけです。
ヴァイツェンでも、ニューイングランドIPAでも、ESBでも。
わたしを含めた日本人ってのはオタク気質なものですから、定義だの分類だのがやたら好きだったりします。もちろん悪いことじゃないと思うんですが、時に本質を忘れて細部にこだわりすぎるのは悪癖でしょう(笑)
とにかく、まずは美味いビールがあり、それがどんなタイプなのかわかわかりやすくするためにカテゴリ分けが生じる、という順番が逆転することなど論理的構造的にありえないわけです。
主はあくまでビールそのもの。スタイルガイドみたいなものは、あくまで分類のための便宜上のもの。
いや、なんでこんなことをいきなり言い出したかというと、自分も気づかぬうちに縛られてたんじゃないか、と感じたからだったりします。
先日ニューイングランドIPAをやりまして、なかなかの出来で評判もそれなりにいただいたのですが、それを飲んだオーナーが言いました。
「この感じ、フルーツビールにも合うんじゃね?」
オーツ麦のタンパク質とβグルカンがもたらす、滑らかな口当たりと濁り。
ラクトースによる優しいほんのりとした甘みと柔らかさ。
うん、合うよね、ロンドン系酵母のつくりだすトロピカルな香りもセットで。
ということで、ニューイングランド的なつくりかたでメロンのエールを仕込みました。
非常にいい出来で、町田のイベントでひと仕込み分売り切ってしまいました。お店のお客さんからクレーム出たよね(笑)
そして、はた、と思い至ったのです。
「これはヴァイツェンでやるべきだ!」
思い至った瞬間に反省しました。
大麦麦芽50%小麦麦芽50%+ドイツ産ホップをベースに調整する、という範囲から踏み出そうとしていなかったことに。
とっくにやるべきだった。うちには挑戦する以外の選択肢なんてないんだから。
固定観念に縛られていた自分に気づかされた瞬間だったのです。
さて、ヴァイツェンの良さってのは色々あると思いますが、「優しいふんわりとした感じ」ってのもとても重要な要素なんじゃないかと思います。
と考えると、オーツ麦とラクトースがビールに与えてくれる「あの感じ」は、ヴァイツェンのヴァイツェンらしさをより高めてくれるはず。
えー、ドイツにはかの有名な「ビール純粋令」というのがあります。
簡単に言うと、麦芽、ホップ、酵母、地元の水だけをビールの原料として認める、というものです。
水質調整のためのミネラル添加さえ禁じられるという徹底ぶりで、歴史的には粗悪なビールの追放によってドイツのビールの品質が飛躍的に向上したという功績がある一方、ビールのpHを調整するのにサワーモルトを使うなんていう裏技を用いなければならない、なんていうバカバカしい状況もあったりするようです。
で、今回試したヴァイツェンに話を戻しますと、麦芽化していないオーツ麦、そしてラクトース(乳糖)という副原料を用いることで、ドイツ的分類でいうともはやヴァイツェンとは呼べなくなります。
とゆーか、ビールですらなくなるという(笑)
ヴァイツェンに「ヴァイツェンらしさ」を与えるために、ヴァイツェンというカテゴリから逸脱しちゃったわけですね。
逸脱上等。逸脱ばかりの人生ですし。
というわけで、いま一度表題に立ち戻って高らかに叫ばせていただきたいと思います。
「より良いビールのためなら、原理主義もビール純粋令もカテゴリもぶっとばせ!!!」
あーすっきりした(笑)
そうそう、誤解のないように申し添えますと、伝統的製法に則ってつくられたビールを否定しているわけでは全くありません。
たとえば富士桜さんのヴァイツェンのように、キチンと正攻法でつくられた「正しきヴァイツェン」には、もちろん素晴らしい価値があり、高い高い壁として立ちはだかり続けてほしい、と心から思います。そもそも超美味いという絶対的な価値がある(笑)
その一方で、やっぱり前線に突撃してフロンティアを開拓しに行く馬鹿ども(ぼくらです、はい)もまた必要だと信じているのです。
さて、その前線突撃お馬鹿さんがつくったヴァイツェン、ええ、ほかに呼びようがないからヴァイツェンと呼びますが、なかなかいい出来です。
まず、明快です。おいしさが素直。理屈っぽさがありません。
狙い通り、ふんわり柔らかく、香り高く、滑らかな口当たりとほんのり優しい甘さを備えたビールになりました。
当社史上、最高の出来のヴァイツェンと言っていいと思います。
みなさん、飲んでどう思うかな?
そんで、このビールを何と呼ぶのかな?(笑)
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