横浜のクラフトビールメーカー「南横浜ビール研究所」の醸造日記

横浜のマイクロブルワリー+ビアパブ「南横浜ビール研究所」の設立経緯から醸造に奮闘する日々を綴ります

第10回「イベントでムキになる理由」

お久しぶりであります。

ビール屋の秋ってのはなかなかいそがしいのです、イベント重なったりとか(春も夏も言ってた気がする)


さて、われら南横浜ビール研究所は、じつは、イベントでビールがよく売れるブルワリーだったりします。

売れる、ではないな、売る、です。

つまり必死なのです。だいたいどのイベントでもいちばん必死で声を張り上げて売ってます(笑)

とにかく目を三角にして、ムキになってます。なんというか、そうするのがスジだ、と思うんですよね。

今回は、ちょっと醸造をはなれてそのあたりを語らせていただきます。


右も左もわからずオープンしてからしばらくは、とにかくビールを作るのに必死で、あまり外向きのことをする余裕がありませんでした。

そんな時期を過ぎ、冬を前に忙しさも一段落した2017年1月、JAPAN BREWERS CUPのコンペに出品しました。IPAを2種類。

結果は、それぞれ1回戦を1位と3位で通過しましたが、2回戦を突破して決勝の6本に残ることはできませんでした。

これがイベントデビュー。

今思えば、経験ゼロからブルワリーを立ち上げ、開業一年未満だったのですから、上出来といっても良かったのかもしれません。

しかし、わたしとオーナーはめっこり凹んで店に戻ったのでした・・・


その後、フェス的なイベントにもいくつか出店し、毎回ムキになりつつ経験を積みながら、イベントで売るにはどうすればいいのか、そしてイベントに参加する意味とは、と自問し続けました。


なんとなく、答えみたいなものも見えてきている気がします。


ひとつには「ひとりよがりに陥らないこと」というのが挙げられるかもしれません。

ビールは、設計して、仕込んで、そして飲んでもらってはじめて完結する製品です。

手に取ってもらって、飲んでもらって、美味しいと思ってもらって、ふたたび手に取ってもらう。

このサイクルをめざしてつくられるべきものだと思うのです。

どんなものが興味をもたれ、手に取られ、飲んでもらえるのか。そして、美味しいと思ってもらえるのか。つねにその点を意識してつくっているつもりですが、それがうまく回っているのかが如実にあらわれるのがイベントなのだ、と実感するようになりました。


ビアラボの店舗は横浜のはずれ、京浜急行金沢文庫駅近くにあります。

ここは商業地、繁華街の規模は小さく、住宅地としてさまざまな世代・嗜好の人々が住む街です。

クラフトビールマニアの人たちだけを相手に商売できるような土地ではありませんし、またそういう方向性は考えていませんでした。

地元のビールメーカーとして、地元の人たちに愛され、その土地に根をはる。

ちいさなクラフトビールメーカーの、それがひとつの理想のかたちだと思ってスタートしたのです。

おのずと、ビールの方向性も定まります。

「飲みやすくわかりやすい美味しさを備えている」

これに尽きると思っています。

たまにヘンテコなビールもつくりますし、ヘンテコなつくりかたを編み出したりしていますが、それらもすべて「普遍的な美味しさ」をめざしたものです。

そこを外れたことはありません。

いまや、もうクセみたいなもので、新たにレシピを構築するときも、気づくと飲みやすさわかりやすさを意識したつくりになっちゃってます。

これがブルワーとしてのわたしの特性だとしたら、まあそれも悪くない、と思うことにしています(笑)

そして、それを意識しながら、あるいは無意識に続けてきたことが、じつはイベントでの強さにつながっているんじゃないか、と最近思うようになりました。


ビールのイベントには、さまざまな人たちが訪れます。マニアばかりではありません。

むしろ、マニアは少数派だと感じます。

なにか楽しそうなイベントやってるな、と来てくれる老若男女、地元の人、遠くの人、海外の人。そんな人たちに、飲んでもらう。

そこでは、飲みやすさわかりやすさは有効な武器になります。

わかりやすさの重要な要素には、名前もあります。

「エクステンディッドセンシズスルーザナイトXYZ」みたいな名前をつけてみたい気もしますが、求められているのは「あざやかホップの小麦エール」のほうだと思うのです。

昨今はクラフトビールブームなんて言われますが、その実まだまだだと感じます。「IPA」はどこでも通じる一般名詞にはまだなっていないのが現実です。読みかた聞かれますもん、今でもお店で。

なので、おしゃれなネーミングに憧れつつも、わたしたちは敷居を下げる方向で名前を考えます。

マニア御用達的な空気が出ていたら、イベントでは少なからずマイナスのような気がしてしまうのです。


味わいにも同じことが言えると思っています。

マニアのみなさんは、じつは優しいので、ちょっとクセの強すぎるビールができたとしても「こういうのもアリだよね」と許してくれがちです。

マニアではない、ライトユーザーのかたが同じビールを飲んで「クセ強い、飲みにくい」という感想をくれたとき、大切にすべきなのはどちらの言葉でしょうか?

もし「これの良さがわからないのか素人め」と思っちゃったら、そこはもうブルワリーとして終ってるんじゃないか、と思うのです。

エクストリームなビールを否定する気はありません。

けれど、エクストリームであることと、普遍的な、だれにでもわかる美味しさを備えていることは相反しません。両立できる要素のはずです。

ストーンのIPAも、ファイアストーンのユニオンジャックも、うしとらさんのウエストグリーンIPAも、伊勢角さんのNEKONIHIKIも、どれもエクストリームでありながら何のエクスキューズも必要ない美味しさを持っています。

それらは、個性を標榜して極端さだけに走ったビールとは志の高さが違う、とても価値の高いビールたちだと思います。

南横浜ビール研究所がめざすのは、そういったビールをつくるブルワリーです。

いつ、だれが、どれを飲んできちんと美味しい。

マイクロだけど、ニッチではない。

変化球よりも直球。

IPAヴァイツェンもポーターもベルジャンもやる当ブルワリーとしてはなかなか簡単ではないことだと思いますが、でもめざします。


ビールイベントは、そういったスタンスがちゃんとうまくいっているかを確認することができる貴重な機会です。

というのも、「同じ場所で出店しているブルワリーの中での相対的な位置がわかる」からなのです。

多くのイベントでは、1日ごとに売り上げを集計し、それがブルワリーに知らされます。

どこがどれだけ売ったか、自分たちは何位なのか、わかっちゃうのです。

これは、お店では得られない、イベントという場だからこそ手に入る、言い訳の効かない成績表だなーと思います。

これはもう真剣になるしかないじゃないですか!

ま、競争に無駄に燃えるバブル世代とゆーのもありますけども(笑)


さあ、少しずつ書いているうちにJAPAN BREWERS CUP 2019が間近になってしまいました。

もちろん燃えてます。

IPA部門に2、新設のペールエール部門に1、小麦部門に2、濃色部門に1、エントリーしました。

渾身のコンテスト仕様です(笑)。

もちろん勝つつもりで出ますよ!

真剣勝負の場、そのくらい気合い入れてつくった、自信のあるビールを出さなきゃ失礼ですから!

そしてもちろん、必死に売りますよ!

売れないと悲しいですし(笑)

いやあ楽しみです。楽しみすぎます。


ではみなさん、大桟橋ホールでお会いしましょう!

第9回「原理主義をぶっとばせ」

ほんとすいません。

サボってたわけじゃないんですよ?

夏はほら、ビールの仕込み忙しいしほら、イベントもイロイロありますし。

ああ、なんか言い訳からスタートするのが流れになってますな(笑)


さて、今回もちょっと吠えてしまいそうな気がしております。タイトルからして好戦的。


わたしの中に、ひとつビールについて揺ぎない思いがありまして、それは「ビールは自由な飲み物である」というものです。

飲まれるシーンを考えても、それはカジュアルで、自由で、肩肘張らない、そういうものだろうと思うのです。


なんのマニアでも原理主義者ってのはいるもので、たとえば「ドイツ産ホップを使ったもの以外ヴァイツェンとは認めない」みたいな発言はたまに目にしたりします。

認めないのは自由ですが、目の前にあるそのビールが美味しければ、そこには確固たる価値が存在しています。


そもそもですね


まず、ヴァイツェンの原型となるビールが南ドイツで生まれ、フォロワーが生まれ、人々の間で認知され、広まっていき、そのあとにそのビールをどう名付け、どこまでの範囲のものをそう呼ぶか決まっていく、という流れなわけです。

ヴァイツェンでも、ニューイングランドIPAでも、ESBでも。


わたしを含めた日本人ってのはオタク気質なものですから、定義だの分類だのがやたら好きだったりします。もちろん悪いことじゃないと思うんですが、時に本質を忘れて細部にこだわりすぎるのは悪癖でしょう(笑)

とにかく、まずは美味いビールがあり、それがどんなタイプなのかわかわかりやすくするためにカテゴリ分けが生じる、という順番が逆転することなど論理的構造的にありえないわけです。

主はあくまでビールそのもの。スタイルガイドみたいなものは、あくまで分類のための便宜上のもの。


いや、なんでこんなことをいきなり言い出したかというと、自分も気づかぬうちに縛られてたんじゃないか、と感じたからだったりします。


先日ニューイングランドIPAをやりまして、なかなかの出来で評判もそれなりにいただいたのですが、それを飲んだオーナーが言いました。

「この感じ、フルーツビールにも合うんじゃね?」

オーツ麦のタンパク質とβグルカンがもたらす、滑らかな口当たりと濁り。

ラクトースによる優しいほんのりとした甘みと柔らかさ。

うん、合うよね、ロンドン系酵母のつくりだすトロピカルな香りもセットで。

ということで、ニューイングランド的なつくりかたでメロンのエールを仕込みました。

非常にいい出来で、町田のイベントでひと仕込み分売り切ってしまいました。お店のお客さんからクレーム出たよね(笑)

そして、はた、と思い至ったのです。


「これはヴァイツェンでやるべきだ!」


思い至った瞬間に反省しました。

大麦麦芽50%小麦麦芽50%+ドイツ産ホップをベースに調整する、という範囲から踏み出そうとしていなかったことに。

とっくにやるべきだった。うちには挑戦する以外の選択肢なんてないんだから。

固定観念に縛られていた自分に気づかされた瞬間だったのです。


さて、ヴァイツェンの良さってのは色々あると思いますが、「優しいふんわりとした感じ」ってのもとても重要な要素なんじゃないかと思います。

と考えると、オーツ麦とラクトースがビールに与えてくれる「あの感じ」は、ヴァイツェンヴァイツェンらしさをより高めてくれるはず。


えー、ドイツにはかの有名な「ビール純粋令」というのがあります。

簡単に言うと、麦芽、ホップ、酵母、地元の水だけをビールの原料として認める、というものです。

水質調整のためのミネラル添加さえ禁じられるという徹底ぶりで、歴史的には粗悪なビールの追放によってドイツのビールの品質が飛躍的に向上したという功績がある一方、ビールのpHを調整するのにサワーモルトを使うなんていう裏技を用いなければならない、なんていうバカバカしい状況もあったりするようです。


で、今回試したヴァイツェンに話を戻しますと、麦芽化していないオーツ麦、そしてラクトース(乳糖)という副原料を用いることで、ドイツ的分類でいうともはやヴァイツェンとは呼べなくなります。

とゆーか、ビールですらなくなるという(笑)


ヴァイツェンに「ヴァイツェンらしさ」を与えるために、ヴァイツェンというカテゴリから逸脱しちゃったわけですね。

逸脱上等。逸脱ばかりの人生ですし。

というわけで、いま一度表題に立ち戻って高らかに叫ばせていただきたいと思います。

「より良いビールのためなら、原理主義もビール純粋令もカテゴリもぶっとばせ!!!」

あーすっきりした(笑)


そうそう、誤解のないように申し添えますと、伝統的製法に則ってつくられたビールを否定しているわけでは全くありません。

たとえば富士桜さんのヴァイツェンのように、キチンと正攻法でつくられた「正しきヴァイツェン」には、もちろん素晴らしい価値があり、高い高い壁として立ちはだかり続けてほしい、と心から思います。そもそも超美味いという絶対的な価値がある(笑)

その一方で、やっぱり前線に突撃してフロンティアを開拓しに行く馬鹿ども(ぼくらです、はい)もまた必要だと信じているのです。


さて、その前線突撃お馬鹿さんがつくったヴァイツェン、ええ、ほかに呼びようがないからヴァイツェンと呼びますが、なかなかいい出来です。

まず、明快です。おいしさが素直。理屈っぽさがありません。

狙い通り、ふんわり柔らかく、香り高く、滑らかな口当たりとほんのり優しい甘さを備えたビールになりました。

当社史上、最高の出来のヴァイツェンと言っていいと思います。


みなさん、飲んでどう思うかな?

そんで、このビールを何と呼ぶのかな?(笑)


リリース時にはフェイスブックで告知しますね!

あと、八景島ビアフェスには持っていきますよー

第8回「ニューイングランドIPA醸造」

夏のイベントでリリースするため、ニューイングランドIPAを仕込みました。


念のため「ニューイングランドIPA」とはどんなビールなのか軽く触れておきます。


濁った外観になめらかな口当たりと甘みを備え、ジューシーでフルーティ、そしてトロピカルなフレーバーをまとっています。

大量のホップを使用する西海岸スタイルIPAの、さらに倍以上のホップが投入されることから「ホップジュース」なんて例えられたりします。


数年前生まれたこのスタイル、アメリカの東から西へと伝い、昨年から日本でもつくられるようになりました。

ということで、当社も挑戦です。


このビール、非常にフルーティでジューシー、そしてトロピカルなフレーバーを備えているのですが、それには酵母が重要な働きをしています。

以前にも何度か書いた「酵母によってホップの香りが作り変えられる」という作用が、このビールのキモなのです。

発酵前にゲラニオールなどの芳香成分を大量に溶け込ませ、フルーティなβシトロネロールなどに変換してもらうことで特有のフレーバーが生み出されています。

おそらくはゲラニオールだけではなく、ほかのテルペン類やらチオール化合物なども変換を受けているのでは、と思うのですが、このへんのメカニズムはまだ解明されていません。大手さん、よろしくお願いします←


で、使われているホップはモザイク、シトラ、アマリロ、などの常識的な柑橘系ホップ。とくにトロピカルなギャラクシーやらエルドラドやらカリプソなんかは使われないのがちょっと面白いところです。


もうひとつの際立った特徴「濁り」ですが、これはぬるっと滑らかなマウスフィールを得るために配合するオーツ麦由来のタンパク質とβグルカンが原因のひとつ、超多量のホップによるポリフェノールがもうひとつ。

柔らかい甘みのために使われる乳糖(ラクトース)も一役買っているかな?


現在アメリカで流行中、というかジャンルのひとつとして定着しつつあるようで、続々と日本にも入ってきていますね。

日本でも志賀高原さんを皮切りにわが神奈川の名門サンクトガーレンさん、伊勢角さんやワイマーケットさんなど、様々なブルワリーが美味しいビールをモノにしています。


当社も、まずはもっとも重要な、ロンドン系の酵母を入手しました。

それからフレークドオーツ。これはコストコでちょうどいい量のものが手に入りました(笑)

それとラクトース。これは必須ではないのですが、「使うか使わないか」という選択なら常に「使う」を選んでしまうのが当社(笑)。最低ロットが25キロというのが悩ましかったのですが、発注してしまいました。


さて、ここで思案です。

いつも意識するポイント「当社ならではの良さをどう注入するか?」です。


ニューイングランドIPAにはひとつ、味覚上の弱点があります。

大量のドライホッピングによって、ミルセンなどによる「松っぽい感じ、樹脂っぽい感じ」がごっそりいるのです。

アメリカのビールはこのへんに無頓着、というかむしろ自慢げに「ちょーレジナスだぜえ」なんて書いてあったりするのですが、正直日本人の味覚ではエグ味に感じられても不思議ではありません。

個人的には「アクセントとして感じられるくらいがちょうどいい」という感じです。


ここで、最近当社的定石となった「ワールプール65℃ホッピング」が生きてきます。

煮沸を終えた麦汁を循環させながら65℃まで一次冷却し、そのタイミングでアロマホップをどさっと投入するのですが、この温度だと重要な芳香成分であるリナロール、ゲラニオールはほとんど蒸発せず残ってくれます。

一方、樹脂っぽさの源ミルセンはほとんど飛んでくれるのです。

ここで投入する量を増やし、発酵中&発酵後に投入するドライホッピングを減らせば、全体として香りのボリュームは確保しつつ、樹脂っぽさの少ない仕上がりになる計算です。


日本人が醸造し、日本で販売するわけなので、より日本人の嗜好に合致した方向に振るのがスジだろう、と考えました。


アメリカにはすぐれたクラフトビールがたくさんあり、それに対する憧れがいまもあります。

あれを再現しよう、と色々試行も重ねてきました。そして、ある程度それはできるようになりました。

すぐれたビール、すぐれたブルワリーに対するリスペクトは抱きつつ、でもただなぞらえるのは終わりにして、日本人である自分が日本の人々に向けてどういうビールをつくるべきか考える。

いまはそういう時期に入った、と感じています。


というわけで!

本日2018.6.25に、樽詰めをしました。

配合したオーツ麦とラクトースは、なめらかな口当たりと優しい甘さとしてきちんと存在しています。

濁りはほどほどですが、それは本質的な問題ではないのでまあいいでしょう(笑)

ホップフレーバーは炸裂しています。

口元に近づけるだけで派手に香ります。

ジューシーでトロピカルなフレーバーも、まさにニューイングランドIPAそのもの。

そして…

狙い通り、樹脂っぽさは「ちょっとアクセント程度に」収まっています。

ひとことで言うと「きれいなNE IPA」です。


さてこのニューイングランドIPA、フレッシュさが重要で早めに飲むのが吉とのこと。

1ヶ月を待たず、早めにつないでみます。

大半はイベントに持ち込んでしまうので、お店で出せるのは少量。

つなぐ時にはフェイスブックで告知しますので、そのときはぜひ飲みにきてくださいね!


第7回「伝統と革新」

またもや間隔あいてしまいました(笑)。

いやね、季節的にビール需要上がりますし、イベントなんかも続きましたし(←言い訳


ということで。


今回は、なんといいますか、当社の基本的スタンスについて語っちゃいたいと思います。


ビール醸造はものづくりです。

より良いものを作ろう、という意志が根底に、常に存在していなければならない、と思います。当たり前ですが。


伝統的製法、なんて言葉があったりします。

それ自体はとても尊いものだと思います。

それは先人たちの苦闘の歴史によって築かれてきた、大切な遺産です。

ただし、ひとたび「伝統的製法を守って」的なことになってくると、はいそこちょっと待った、という気分がこうべをもたげてきます。


伝統的製法ってのは、いわば「基礎」にあたるものではないか、と考えています。

きちんと理解していなければいけない。ちゃんとできなきゃいけない。

けれど、われわれがいるのはものづくりの現場です。ビール醸造の前線にいるのです。すべてのブルワリーは。ブルワーは。

「伝統を守る」という字面はいいですが、それはすなわち進歩から背を向けることに他なりません。


てゆーかですね


デコクションも瓶内二次発酵もドライホッピングも、編み出された当時は「革新」だったのを忘れてはならないと思います。


先人たちが考えに考え、ときに失敗に失意し、そういう苦労を重ねて革新的な製法を産み出し、それが広まって時を経て「伝統的製法」になったんですよね。

ぼくらだって、先人たちと同じように、未来の伝統的製法となるてあろう「革新」を志すのがスジってもんだ、と強く思います。


うちの名物ビールに「とりがらシリーズ」があります。

とりがらエキスが本当に、わりとたっぷり投入してあります。

これ、ふざけてつくったわけではありません。

世にはいわて蔵ビールさんの「オイスタースタウト」やヤッホーさんの「前略sorry」シリーズのように、動物性のアミノ酸を投入したビールが存在します。

どれも美味しく、ソレを投入することでビールに特別な良さが備わるのだとわかります。


うちもやるべきだろう、やるなら鶏だろう、とオーナーが言い出し(←オーナーは現焼鳥やさん)、最初笑っていたのですが、考えてみるとやる価値があると思ってつくったのが「とりがらIPA」でした。

いまは、秋冬バージョンのポーターにもこっそりとりがらエキスを投入しています。

ゲテモノではない、きちんと美味しいビールとして、いまは定期的に仕込んでいます。

得られた効果は、次の通り。


・ビールに複雑さとまろやかさが加わる

・ビールの完成が早まり、1ヶ月半で熟成にも似たニュアンスが得られる。これによって、熟成とホップのフレッシュさという相反した美点を備えたビールをつくることができる

・おそらくはコラーゲンが、ビールの清澄化に寄与してクリアなビールができる


念のため申し加えておきますと、とりがらの味はしません(笑)


最近熱中しているのは「ワールプール65℃ホッピング」で、煮沸終了時ではなく、麦汁を65℃まで冷却してからホップを投入するというものです。

100℃で投入した場合とは残る香り成分が大きく変わるため、ただいまさまざまなホップのニュアンスの変化を確かめています。

なんか凄そうなのは「エキノックス (エクアノット)」。

なんかいつもと全然違う!オレンジがたくさんいる!


あとは、まさに今日樽詰めしたポーターは「水出し」を試しました。

黒い色合いと、カカオやコーヒーっぽさの源であるチョコレートモルトを、前の晩から常温の水に漬けておいて成分を「水出し」し、糖化工程の最後、濾過直前になってから麦汁に投入する、という試みです。

渋み、酸味、鉄っぽさを抑えられるのではないか、と考えてやってみました。

樽詰め時点でのテイスティングでは、かなりいい感じ!


レシピをいじる、新しいホップを使ってみる、なんてのももちろん大切ですけど、ものづくりとしてより大切なのは「どういう方法でつくったらより良いものになるか」という点に知恵を絞ることなんじゃないか、と思います。


当ブルワリーは醸造歴は浅く、また異業種からの参入の素人スタートで、あんまり生意気なこと言える立場じゃないかもしれませんが、でも「守りに入らない」のは貫いていきますぜ!


いやね、うちはヘッドブルワーもオーナーブルワーも人生の折り返し点をすぎた(ぶっちゃけ今年50)オッサンなんですよ!

守りに入ってるほど残り時間がないんですよ!

ええもう開業した瞬間にほんのり後継者問題が浮上ですよ!


というわけで(←脈絡を無視して強引にまとめにかかるサイン)


横浜の南のはずれで革新を旗印に眼を三角にして仕込みに向かうマイクロブルワリーを今後ともよろしくお願いします。

センテンス長い

第6回「酵母とホップの濃密な関係」

ちょっと間隔が開いてしまいました。
ビールが売れて忙しいと更新は滞るのです。あしからず(笑)

さて今回は、酵母とホップの関係について。

ビールにフレーバーを与える両者。
ホップはα酸β酸で苦味を、精油成分で香りをつける。
酵母は、発酵の各フェーズで高級アルコール脂肪酸エステルといった芳香成分を作り出す。
これらは、それぞれが独立した作用だと思われていました。わたしも割と最近までそう思っていました。

それが、どうやらそうではないようなのです。
サッポロビールさんがガスクロマトグラフィーと官能評価の組み合わせで明らかにした研究成果によると…

酵母とホップは、協力してビールのフレーバーをつくりだしている」

人類が、ビールにホップを加えるという手法を見つけたことによって、酵母とホップははじめて麦汁の中で出会いました。
にもかかわらず、まるでそうなるのが当たり前のように、ふたりは(←)協働していたのです。

ホップの持つゲラニオールという成分は、バラのような香りと表される重要な芳香物質です。
このゲラニオール、発酵が進むにつれてどんどん減少する。そして、そのかわりにβシトロネロールという別の芳香物質が増加する。
これ、じつは、酵母代謝によるものだったのです。
バラ様の香りのゲラニオールを、柑橘様の香りのβシトロネロールに作りかえている。酵母が。
この記述を見つけてから、ネット上をさまよっては様々な文献を読み漁り、酵母やさんからワイン用酵母の資料を取り寄せて読みふけったりしていました。
その結果わかったのは…

酵母は、テルペン類に限らず、チオール、エステル、フェノールなど様々な香り成分を作り出しているが、その香りの材料として別の香り成分を使用している」

ということです。

たとえば、あるベルギー系セゾン酵母は、ホップのテルペン類を消費して、あの特有の香気(エステル)をつくりだしています。
ちなみに、ベルジャンウィートによく使われるコリアンダーシードには、ホップをはるかに超える量のゲラニオールが含まれています。
つまり、コリアンダーシードに含まれるゲラニオールが酵母に変換されることで、あのフルーティなフレーバーが生まれているということです。スパイシーにしたいわけじゃないんですね。

たとえば、昨今はやりのニューイングランドIPAは、エステル産生能の高いイギリス系酵母を使い、ホップのもつゲラニオールなどをβシトロネロールなどに変えることで、あのフルーティでトロピカルな味わいを出しています。
ちなみに、エルドラドやらエキノックス などの「トロピカル系」ホップはあまりニューイングランドIPAには使われません。
シトラ 、モザイク、アマリロなど、わりと常識的なホップがほとんどだったりします。
トロピカルを担当しているのは酵母だったのですね。

たとえば、西海岸IPAは、ホップのフレーバーをストレートに味わうために、あまりエステルをつくらない「おとなしい」酵母が使われます。代表はサンディエゴスーパーですね。
これは、エステルがホップの香りをマスクしてしまうから、と言われていたのですが、いや、それはそれで間違いないのですが、もうひとつ、ホップの香りがあまりエステルに作りかえられないために「ホップフレーバーが減らない」というのが真実だったようです。

酵母はホップの香りを作りかえている」
この事実を知ったことは、ビールを設計してゆく上で極めて重要なターニングポイントとなりました。
そしていま、この点を意識したビールづくりに移行しています。

まずペールエールとIPA
βシトロネロールの柑橘フレーバーを最大化するため、ホップのもつゲラニオールを熱で飛ばさないよう、65度でホップを投入する「ワールプールホッピング」に変えました。また、IPAについては、酵母代謝で失われたゲラニオールを補うため、発酵終盤の酵母の働きが落ちたタイミングでドライホッピングを施しています。
結果は良好。非常に華やか、かつドリンカブルなビールができてきています。

そして限定「麦のスパークリングワイン」。
これは、ぶとうを一粒も使わずにワインのようなフレーバーを持ったビールを作ってみよう、という試みです。
まずはエステル産生能の高いワイン酵母をチョイスし、その酵母にワインらしいエステルを作り出してもらうために「香りの材料」を与える、という考え方で仕込みました。
香りの材料はホップです。
中でも、煮沸によってワインのようなチオール化合物が生じるネルソンソーヴィンを主力にしました。
ワインのようなフレーバーを作ってもらうなら、材料もまたそれに近いものを選ぶのがスジだろう、と考えたのです。
ワインのようなチオールを持っているならその前駆体もまた持っているだろう、というふうにも考えました。
これも、狙い通りと言っていい結果が出ました。
4月中旬現在ビアラボでつながっていますが、お客様の反応は上々です。
不思議に美味しい、ビールのようなワインのような飲み物、といった風情(笑)
これは次回、さらに精度高く狙いに近づけていこうとすでに設計をはじめました。仕込みの予定は未定ですが。

さて、えらい長編になってしまいました。
だれかついてきてくれているんだろうか…

第5回「一番搾りペールエール」

一番搾り製法の考え方を取り入れて仕込んだペールエールが完成しました。

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一番搾り的考え方についての記事はこちら

http://beerlabo.hatenablog.jp/entry/2018/02/08/133131


結果から申しますと、非常に良好です。うまい。

レシピ自体は前回と同一、仕込み方法だけを「ポリフェノールの溶出を減らす」ように変えただけなのですが、まるで別のビールになりました。


まずはっきり感じるのが、味がクリアに、ドリンカブルになったことです。

IBUも当然前回と同じなのですが、苦味が軽く、きめ細かくなったのを感じます。

そうか、麦芽由来の渋み成分は思っていた以上に存在していたんだ、と気づかされました。


もちろん、渋みは完全なオフフレーバーというわけではありません。

味わいを構成する重要な要素のひとつであり、まったくなかったら、きっと薄っぺらい味になってしまうでしょう。


しかし、今回「渋みをコントロールする」という視点、そしてその手法を手に入れたことは、ブルワーとしての幅が広がったことを意味します。

ビールによって渋みの度合いを変える、変えられるということは、ビールの設計に新たなパラメータが加わり、設計の自由度が上がったということになるからです。


そうそう、ホップの存在感も増した気がします。

渋みにマスクされていたのかもしれません。


当社のペールエールは、お店に「まずはこの一杯」と書いてある通り、入口商品です。

誰にでも飲みやすく、わかりやすい美味しさを備えたビールをめざしています。

典型的なアメリカンペールエールと比べると、ボディは軽めで苦味も控えめ、ホップのキャラクターは華やかさ重視で設計しています。

そう考えると、渋みを抑えた「一番搾りペールエール」はなかなかふさわしいんじゃないか、と考えています。


ぜひ一度、飲んで感想を聞かせてください(笑)



第4回「ホップのブレンドに関する考察・発展編」

前回、ホップをブレンドする意味について基本的なところを考えてみました。

今回は、もう一歩深めてみたいと思います。


ホップがビールにもたらすフレーバーの源は、数種類の精油成分であると書きました。

海外サイトで分析値を調べた時に「OIL」の欄に並んでいる、以下の成分です。

・ミルセン

・フムレン

・カリオフィレン

・ファルネセン

・リナロール

・ゲラニオール

・ピネン

これらの物質がどういう割合で、とれだけの量含まれているかが、ビールに移るホップフレーバーを決定している、ブルワーは使用するホップの配合によってそれを調整する、という内容でした。

ここまでが基本編。

で、続きがあるわけです。


サッポロビールさんが、ホップに関する興味深い研究をいくつか公開しています。

そのひとつに、ニュージーランド産「ネルソンソーヴィン」に関するものがありました。

ネルソンソーヴィンは比較的最近品種改良されたホップで、特有の芳香から非常に人気があります。

その香りは、白ワインや白ぶどうに例えられます。非常に高貴でさわやかな香りです。

サッポロさんは、これらの香気が上で書いた精油成分の組み合わせで生じたものではないはずだ、と考えて独自に成分を分析しました。

そして、ガスクロマトグラフなどの科学的アプローチと官能検査を重ね、精油成分以外に芳香に関与している3種類の「チオール類」と呼ばれる物質の存在を突き止めたのです。(←読みながらワクワクしました)


さらに、これらの物質は「高温で生成される」ことも明らかにしました。

ちなみに最大化される条件は「100℃で20分」。

そう、高温で失われていく精油成分とはまったく逆のメカニズムで生じるのです。


へえーっ、と感心した次の瞬間、あっ、とひざを打ちました。

思い当たることがあったのです。


1年目の夏、スカッとしたIPAをつくろう、と思い、「夏バージョン」と名付けてシンプルなホップ構成のビールを仕込みました。

ビタリングはチヌークのみ、60分煮沸。

アロマはモザイクのみ、火止めで投入。

淡い色合いのこのIPAは、チヌークの存在感ある苦味とモザイクのシトラスフレーバーが同居した、なかなか良い出来でした。

これを飲んだオーナーが「この感じ、うちの入り口商品たるペールエールにこそ似つかわしいんじゃないか」と言い、なるほど、ということで、ペールエールにこの配合を移植してみました。

出来上がったペールエールは、さわやかで美味しいんだけど、IPA夏バージョンとはどうも違う。もう一度試してみても、やっぱり同じ感じにはならない。


原因は、ビタリングに使ったホップの違いでした。

苦くなりすぎないよう、ビタリングにチヌークではなくハラタウブランを使っていたのです。


当時、ビタリングは苦くなればなんでもかまわない、と思っていました。

ということで、アロマで使ってもいまいち香らないハラタウブランを「ちょっといらない子」扱いでビタリングに回していたのです。

早く減らしちゃおう、くらいに思っていました。

ビタリングホップの違いでもビールのキャラクターがはっきり変わるのだ、と実感として知った瞬間です。


そして、あれから一年半を経て、サッポロビールさんの文献を読み、これもまたチオールの働きによるものに違いない、と気づいたのでした。


ハラタウブランは煮沸で輝くホップです。

煮込んで使うことで、白ワイン、白ぶどう、レモン、グレープフルーツなどの、とてもさわやかなフレーバーをもたらしてくれます。

これは、高温で生成されるチオール類の働きだろうと推測できます。

(※わたしは、ビールに気品を加えたい時にこのホップを配合します。アメリカンIPAなども、これによってちょっと品が良くなります)


チヌークもまた、特有のチオールを持っているホップではないかと思います。

このホップでビタリングすると、あっチヌークだ、とすぐにわかる特有の「重さ」みたいなものが備わるのです。


このように、特有のチオールを持つホップは他にもあるはずです。

キーワードは「煮沸すると浮上してくるフレーバー」。

ビタリングで使って個性が感じられたら、そのホップには何らかのチオールがいると考えていいと思います。

そして、そういう個性を見出してインデックスしておくことは、ビールづくりの大きな武器になるはずです。


ビールに香りをつける場合は、なるべく熱を加えないタイミングで、というのが常識です。

最たるものは、発酵中にホップを投入する「ドライホッピング」です。

ただ、これらの方法で得られるのはほぼ精油成分ということになります。そのバランスによってフレーバーが決まる。どういうバランスに持っていくかを、ホップをブレンドすることによって調整する。


サッポロビールさんの研究は、ホップの香りは熱で飛ぶ、という常識を覆し、熱を加えることで生成される個性的な香気成分が存在することを教えてくれました。

「煮沸によって、品種が固有に持つチオールのフレーバーを加えることができれる」

この視点は、ビールづくりにより幅を持たせてくれるでしょう。


ということで。

明日、ペールエールを仕込みます。

ネルソンソーヴィンの、シングルホップです。

IBU20、この条件で得られるチオールの量が最大になるようにビタリングの量と投入タイミングを決めました。

アロマは、火止め時ではなく、65℃まで冷却した時点で投入することでリナロールとゲラニオールを最大化します。

さあ、どんなビールになるでしょう?

楽しみだ!